メンタルヘルスの新たな対応
第9回日本臨床死生学会



 2003年12月13,14日,第9回日本臨床死生学会が東京・法政大学市ケ谷キャンパスにおいて約200名の参加を得て開催された。大会テーマは「死生学におけるスピリチュアリティ−Spirituality」。

 白井幸子氏(ルーテル学院大学教授)は会長講演「死生学におけるスピリチュアリティ−サナトロジストに期待されるもの」で,スピリチュアリティの理解や解釈は様々あるが,W.o’Hanlonが提唱する「日常性の中のスピリチュアリティ」の概念に基づいて,末期医療におけるスピリチュアリティの意味と働きを話された。

 同時に戦後日本が得た経済的繁栄とバブル経済破綻の後直面した様々な困難,年間31,000人を超す自殺者,小中校生の不登校の増加,若者の引きこもり,乳幼児虐待等々の問題に対しても,スピリチュアリティの側面は無視できないこと。経済的な豊かさが必ずしも人々に「幸せ」をもたらさなかったことのなど,今あらためて人生における「スピリチュアリティ」のもつ意味を考える必要性を提唱された。

 会長講演にも連動したシンポジウム「職域における自殺をめぐって」では植田紀美子氏(厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部精神保健福祉課心の健康づくり対策官)が厚生労働省における自殺予防対策について,黒木宣夫氏(東邦大学医学部附属佐倉病院精神科)が「自殺と災害補償」,川人博氏(弁護士)が「働く者の自殺予防のために−過労死110番の相談活動から」と題してそれぞれ問題提起をした。

 植田氏によるとわが国の自殺による死亡者数は平成10年以降3万人を超え,平成14年には交通事故死の2.6倍にも達し,25〜44歳(男性)では死因の第1位となっているという。こうした現状に厚生労働省の自殺予防への啓蒙活動や「いのちの電話」などの相談体制の強化の具体策など話された。

 また労災委員として精神疾患の労災認定にも当たっている黒木氏からは,この20年間の精神疾患の労災補償状況を通し,最近の労災申請の中で,精神疾患申請件数が自殺件数を大きく上回っていること。また精神科を受診せずに自殺に至った事例は認定・非認定とも高い数値を示していることから,周囲(家族・職場)の気遣いが大切であることなどが語られた。

 川人博氏は,全国の弁護士・医師・職業病専門家等で1988年より行なっている「過労死110番」の相談内容・件数などから,ここ5年間に自殺事例の相談が急増していること。またそれらの背景には仕事による過労やストレスが主な原因であること,最近増えつつある働く女性の心の病にも関心を向けながら,今後ますます職域のメンタルヘルスの重要性が高まっていくこと,など話された。

 一般演題38題の概要は,小学校における死にふれる教育・高校生の生と死の意識調査など学校教育の場において死の問題にどう対処していくかに関わるもの,がん闘病記の変遷や様々な状況での死別体験後のケアの問題,また,遺族への対応やスピリチュアリティ教育に関するものは日本と米国双方の状況が発表され関心を深めた。

 他に特別講演キャロル・サック氏(ルーテル学院大学付属人間成長カウンセリング・センター研究所)による「音楽による看取りのケア」やシンポジウム「スピリチュアリティのありかた」など多彩なプログラムで大会運営が行なわれた。

 今学会の特徴として感じたことは,いずれの会場でも演者と参加者の活発な質疑が展開され,密度の濃い内容が討議されていたこと。また,こうした医療・宗教・哲学・人文社会科学等の学際的な立場から,病気や死に対するさまざまな問題に対応する実践・教育の統合的に対応が今後求められることを強く示唆された学会であった。