看護師の数が医療のセーフティネット
「医療安全確保のための看護人員体制とアウトカムに関する日米セミナー」

 看護師不足は世界的に深刻な問題になっている。「世界で最多の看護師を雇用している米国では,2010年までに275,000人,ほぼ同じ頃までに,カナダでは78,000人,イギリスでは53,000人,そしてオーストラリアでは40,000人今よりも多くの看護師が必要になる」(リンダ・エイケン。本誌4月号参照)。
 入院期間短縮化で重症患者ばかりの病棟は,さながらICUのような状態を呈していると言われている。さらに電子カルテ導入への対応で長時間の残業が慢性化していると言われ,看護職は疲弊困憊し,医療事故がいつ起こっても不思議ではないという現場の声が聞かれる。 つまり,ただでさえ「看護現場は危険信号」を発しているのに,さらにこの先,相当数の看護師不足が待ち受けているとしたら……考えるだけでも恐ろしい。
 このような危険な状況を踏まえ,去る2月19日,井部俊子氏(聖路加看護大学学長)が主任研究員を務める「医療安全確保のための看護人員体制とアウトカム指標の検証」(厚生労働科学研究)研究班がその研究の一環として,報道関係者を対象に日米セミナーを開催した。会場も日本プレスセンター(東京・千代田区)という報道関係者の本拠地。世界と日本の看護,ひいては医療が置かれている状況を一般市民に伝えてもらいたい,というのが企画意図という。

 セミナーのプログラムは,第T部「日本の医療安全確保と看護師配置に関する現状」,第U部「日本の医療安全確保と看護師配置に関する課題」,第V部「米国の医療安全確保と看護師」,第W部「パネルディスカッション:これからの医療安全確保と看護人員配置のあり方」であった。

 第T部では,井部氏が現行の医療法などで決められている看護師配置基準を概説。続いて福留はるみ氏(神奈川県看護協会)が研究班の調査結果をもとに深夜勤での医療事故発生リスクが高いことを報告した。

 第U部では,嶋森好子氏(京都大学医学部附属病院看護部長)が,“患者が必要とする看護量”をはかるツール「看護必要度」と診療報酬制度の「夜間看護加算」の考え方を紹介。また,国立大学と市中病院を対象とした調査から,ICU基準に相当するハイケアユニットや一般病棟が存在し,患者の重症化と看護師の過重労働が顕在化していることを報告し,警鐘を鳴らした。続いて陣田泰子氏(聖マリアンナ医科大学病院看護部長)が「看護管理者の努力と怒り」と題した報告を行なった。看護部長着任後2年間で100人増員に成功したが,看護師の過重労働は常態化し,「焼け石に水」の状態であることを現場の看護部長ならではのリアリティで語った。結論としては,看護師の過重労働の原因は「@リスクマネジメント,AIT化,B医療費抑制政策」にあるとし,大幅な人員増がかなえられなければ見通しは暗いことを訴えた。

 第V部では,招待演者であるナンシー・ドナルドソン(UCSF准学部長)とパット・マックファーランド(カリフォルニア看護リーダー協会経営幹部責任者)が,共に主任研究員・指導者である米国の「Calnoc(カリフォルニア州看護成果連合)」の活動について紹介した。「看護師人員配置と患者安全,アウトカムを関連づける」研究と実践が成果をあげつつあり,標準化された測定方法とデータ分析が,「エビデンス・ベイスド・チェンジ」を可能にすると語った。これは,昼も夜間も常時の看護師対患者比(1:4)がカリフォルニア州で法制化される際に最適比率について調整が難しかった反省を踏まえての試みだという。現在170ほどの病院がこのCalnocに参加している。

 第W部のパネルディスカッションでは,医療安全確保のための看護人員配置のために,Calnocの経験から学び,日本でも根拠に基づいた変化を起こすためのデータベースを作ることを今後の指針とすることが井部俊子氏から語られた。