2019年3月号掲載
NURSES' EYE その3
樋口 佳耶 看護師 
看護師に向いていない

 3月号の本誌が皆さまのお手元に届くのは,ちょうど退職のシーズンだと思います。職場を去っていかれる理由はさまざまで,家庭の事情があったり,大学院へ進学されるという方もいらっしゃるでしょう。
 私はこの時期になると,同僚の看護師Jさんが退職の際に残していった言葉を思い出します。

 2月のある日,「今月いっぱいで退職します」とJさんが挨拶に来てくれました。「え,辞めちゃうの?」と思わず尋ねると,「はい。私,看護師に向いていないってわかったので」とポツリ。次に決まっているという仕事は,看護とはあまり関係のないものでした。
 Jさんは新人ではなく,かといってリーダー業務は担えないくらいの経験年数でした。先輩の目は新人に向きがちで,ある程度の仕事は1人でできることが要求されます。日勤帯が終わり,他のスタッフが詰所で記録をしているなか,Jさんの姿だけ見当たらないことがありました。病棟内を探しに行くと,Jさんは汚物室でケアの片づけをしていました。「そういうのは一緒にできるから,声かけてよ!」と言うと,「でもみんな残業してますし,私の仕事が遅いだけなので……。私,ほんとに仕事ができないんですよね」。

 Jさんは,誰よりも丁寧に患者さんに接し,きちんと看護をしていました。ただ,それには時間がかかるのも事実です。効率よく,たくさんの業務をこなすことが求められてしまう現場では,Jさんのような人が「私は仕事が遅くてできない看護師だ」と思ってしまうのも理解できます。
 「私,看護師に向いていないってわかったので」とJさんが口にしたとき,「Jさんはいつも丁寧に患者さんに声をかけてケアをしていたし,看護師に向いていないと私は思わないよ。だから,そんなこと言わないで……」と言いたくなったのですが,一生懸命仕事をしているJさんの姿を思い返しながら,その言葉をぐっと飲みこみました。いまのJさんは,もう疲れ切っているんだろうと思ったからです。

* * *

 もし,読者の中に,「私は看護師に向いていないのかもしれない」と感じておられる方がいらっしゃったら,人生経験も看護師経験も浅い私ですが,お伝えしたいことがあります。それは,1つの職場や先輩からの言葉やフィードバックだけで,看護師としての自分を評価しないでほしいということです。私自身もいくつかの職場で働き,自分では何ら変わらず仕事をしているつもりでも,周囲のスタッフから真逆の反応が返ってきたことがあります。つまり,1つの職場での経験だけでは,看護師という職業が自分に向いているかそうでないかの判断はできないと思うのです。たまたま,その職場が合わなかっただけかもしれませんから。

 Jさんのような人が「看護師に向いていない」と感じて現場を去っていくことはあまりにも悲しいし,看護界にとって大きな損失になると思います。Jさんが今,どこでどんなお仕事をされているのかわかりませんが,看護師としてイキイキと働いてくださっているといいな,と勝手に願っています。
ナンバーさんによる写真ACからの写真

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