2018年6月号掲載
物見遊山のフラヌール または聴かずに死ねるかクラシック その04
中木 高夫 看護ウォッチャー
ハイデルベルク③

今夜は1曲目から「ブラヴァ」のフィルハーモニーコンサート。晩ごはんのカルテス・エッセンは,まるでアドレナリンを抑えるためかのようなDr.NAKAKI。おすすめYouTubeも快調の第4回のはじまりです。


10月25日(水)
 今日は夜8時からハイデルベルク市公会堂〔シュタットハッレ(Stadthalle),写真1〕でテアター(劇場)のオーケストラのコンサート(Philharmonisches Konzert)があります。
写真1 ハイデルベルク市公会堂
 シュタットハッレはネッカー河畔にあり,すぐそこにネッカー川の土手が見えます。建物は見るからに古いですが,なかもかなりの老朽家屋だと思います。内部は改装されていますが,座席などは仮設でパイプ椅子です。平土間で机や椅子をどのようにでも配置でき,音楽会場としてだけでなく会議場としても用いられているのでしょう。
 ハイデルベルクのテアターのオーケストラは,オペラの伴奏ばかりしているのではありません。ホームページ(www.theaterheidelberg.de/)の“Konzert”のドロップダウンメニューをポチすると,2017-2018年のフィルハーモニーコンサートの予定が出てきます。ちなみにシーズンは秋から夏前までです。今シーズンは8回予定されていますね。ぼくが旅行期間に行けるのは2~4回です。もひとつちなみに,“1.”とか“2.”とかあるのは“first” “second”という意味です。今日は第2回目のフィルハーモニーコンサートです。
 今日の指揮者はエリム・チャン〔陳以琳(Elim Chan),写真2〕。1986年香港生まれの30歳か31歳。こんなあどけない指揮者のフィルハーモニーコンサートのポスターが街中に貼られています。
写真2 エリム・チャン
 大学から米国に渡り,最初は医師になることを目指してスミスカレッジに入学。ところが米国の大学の教養課程では音楽がかなりの幅を占めています(このあたりは,たまたま今回の旅行に持参した菅野恵理子『ハーバード大学は「音楽」で人を育てる─21世紀の教養を創るアメリカのリベラル・アーツ教育』(アルテス・パブリッシング,写真3に詳しい)。チャンさんは宗旨替えして,音楽を勉強するためにミシガン大学に移り,2011年にはオーケストラ指揮で音楽修士,2015年には音楽芸術博士を取得しています。2014年にはロンドン交響楽団の指揮者コンクールで女性としてはじめて優勝し,指揮者としてのキャリアを歩みはじめました。2017年のシーズンからは,フィンランドのNorrlandsOperanの主席指揮者,そしてロイヤル・スコティッシュ・ナショナル・オーケストラ(RSNO)の主席客演指揮者に就任しています。いやあ,スゴイ!
写真3

* * *

 今夜のプログラムはムソルグスキー「はげやまの一夜」,ブルッフ「ヴァイオリン協奏曲第1番」,リムスキー・コルサコフ「シェラザード」。
 1曲目。はげやまの一夜。通俗名曲。小曲はあまりなじみがない。しかし,おそろしいほど細かい指揮ぶり。オーケストラが指揮者の言いなりにならざるをえないような指揮です。全部指示していきます。田舎のオケも一所懸命。当然ですが,1曲目から「ブラヴァ」です(「ブラヴォー」は男性に対して,女性に対しては「ブラヴァ」なのです。ちなみに相手が複数の場合は「ブラヴィ」,感極まれば「ブラヴィッシモ」です)。
 2曲目。ブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番。ヴァイオリン独奏はノア・ヴィルトシュット(Noa Wildschut,発音はわかりません。オランダ語はドイツ語の一方言という説があるのでドイツ語読みにしました)。オランダ生まれの16歳。ルイ・シュポア国際ヴァイオリンコンクールなど,コンクール歴も立派です。音楽はというと,やはり16歳でした。1曲目の「ブラヴァ」と「ブラヴィッシモ」のあとはつらかったかな。
 3曲目。シェラザード。通俗名曲。やたらとコンサートマスターのソロが出てくる曲です。どうしても合わせものになるので,思いっきり自己表現したい指揮者には気の毒なプログラミングですね。なんとかならなかったのかしら?最初の予定ではチャンさんではなかったとか。でもねえ。
 しかし,チャンさんはすごい。オーケストラコントロールが抜群で,コンサートマスターが引き立つ。あとで,あのコンマスは上手やったよと娘に言ったら,娘がそれを友人でテアターのオケに勤めたことのあるヴァイオリニストに伝え,「エッエー?」と言われたらしい。そんなに上手くないらしい。でも上手かった。指揮が映えさせたんですね。
 この日の晩ごはんはカルテス・エッセン。つまり,冷たい食事。冷蔵庫のなかのあり合わせでワインを一杯飲んで就寝しました。

おすすめのYouTube

 YouTubeですが,「はげやまの一夜Eine Nacht auf dem kahlen Berge」はドイツ語を入れて検索してください。ムソルグスキーのオリジナルとリムスキー・コルサコフ編曲版の両方が出てきます。小曲ですから,どれでもいいです。
 ブルッフ「ヴァイオリン協奏曲第1番」は「bruch violin concerto 1」で検索。素敵な演奏に出会いました。キム・ボムソリKim Bomsoriさんです(写真)。コンクール荒らしと呼ばれ(これだけですごい),2016年2月の記事ではジュリアード音楽院の学生で,まだ26歳。いい検索をしました。
 リムスキー・コルサコフ「シェラザード」は,ぼくの若い頃はアンセルメとストコフスキーが双璧で,その後にカラヤンの録音が割り込んできました。どれもよい演奏です。YouTubeはkorsakov scheherazadeで検索。ヴェルギエフとウィーンフィルによるサルツブルク音楽祭での演奏(Rimsky-Korsakov:Scheherazade/Gergiev・Vienna Philharmonic・Salzburg Festival2005)がよいのではないでしょうか。
キム・ボムソリ
※紹介したYouTubeが削除されていることがあります。

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