2018年7月号掲載
物見遊山のフラヌール または聴かずに死ねるかクラシック その05
中木 高夫 看護ウォッチャー
バーデンバーデン①

バーデンバーデンへの乗り換え時間9分間,着いた列車は8分遅れ。足の乱れもなんのその。次の列車に駆け込む一同とDr.NAKAKI。宿に夕食,準備万端。今夜の劇場に,さあさ,陽気にでかけましょう。


10月27日(金)
 バーデンバーデン祝祭劇場は変わった劇場です。ある意味で日本型といってもいいかもしれません。自前の歌手たちやオーケストラがない劇場なのです。ドイツでは,テアターというとオペラと芝居をやっていて,オペラのほうは自前のソリストやコーラス,そしてオーケストラがあるというのが普通です。ムコ殿の姉さんが勤めているカールスルーエの劇場には全部で800名の職員がいるとのこと。バーデンバーデン祝祭劇場の形態は貸し劇場です。もちろん運営に必要なスタッフはいるのでしょうが,出演する人たちはよそから集めてきます。でも,集めてくるのがスーパースターやスーパープロダクションばかりというのがバーデンバーデン祝祭劇場の存在意義です。バーデンバーデン祝祭劇場はドイツで2番目に大きな劇場です(写真1)
写真1 バーデンバーデン祝祭劇場

 バーデンバーデン祝祭劇場のホームページは少々不便です。というのもチケットを自前のプリンターで出力することができないからです。あとからわかったのですが,豪華なチケットをお客さんに渡すためでした。
 バーデンバーデンという街は,ローマ時代から続く「テルマエ・ロマエ」のような温泉がある有名な保養地です。まあ,金持ちの年寄りが住む街という感じ。ハイデルベルクからはカールスルーエ乗り換えの鈍行で1時間半くらいでしょうか。乗り換え時間を含めてですが。
 今日は1人でバーデンバーデンへ電車で行きます。キップを買うところからストレスです。切符売り場で長いこと待って,DB(元は国有鉄道。今は民営化されている)のオジサンの前へ。英語で丁寧に応対してくれます。旅程をプリントアウトして,お金はクレジットカードで。ま,簡単でした。
 カールスルーエでの乗り換え時間は9分間ですが,列車は8分遅れ。駅に着いたら降りた人たちと一緒に走りました。あまり長い距離ではなかったので心臓パクパクも大丈夫。乗り換え成功です。バーデンバーデン駅前のキップ自販機もなんとかこなし(英国国旗を押せば英語になります),バスの中の表示を見て祝祭劇場前で下車しました。終演時間がおそらく11時近くになるだろうと予測していたので,劇場の近所の「ホテルシュヴァイツァーホフ」を予約していました。朝食付きで12,000円くらいですから,品川駅前のビジネスホテルよりも安いです。バスから降りると劇場の隣がホテルでした。食料品スーパーに行き,演奏終了後の寝酒の準備もしました。さて,祝祭劇場に出かける少し前に晩ごはんです。あたりを歩いてみたのですが,入りやすい居酒屋風のところはありません。1軒だけアジアンレストランがあったので,そこで「Yakisoba」を食べました。ソース焼きそばよりちょっとましなソースで焼いてあり十分でした。劇場ではクロークにコートを預けると2ユーロ50セントを要求されました。いままでの劇場では無料だったので「エエッ!」です。チケット代は130ユーロから19ユーロまで。安い席があるからでしょう,学生の姿がかなり見受けられました。ヴァイオリニスト目当てかな。

* * *

 今日の演奏はヘルベルト・ブロムシュテット指揮のライプツィッヒ・ゲバントハウス・オーケストラです。1曲目が,ギリシャ出身のレオニダス・カバコス(写真2)がゲバントハウスゆかりのメンデルゾーンのヴァイオリン協奏曲を弾きます。2曲目がブルックナーの交響曲第7番。ブロムシュテットは今年で90歳です。いま聞いておかないと二度と聴けないかも。
写真2 レオニダス・カバコス

 メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲には,ピアニッシモでピーと伸ばすところが何回もあります。カバコスの演奏ではそこが聞こえるか聞こえないかぐらいの音量で,聴衆は緊張して息を止めて聴き入ります。ぼくも同じです。「きれいやなあ」と感心するとともに涙が出てきました。こんな経験ははじめてです。カバコスは長身長髪で,そのくせおなかが少し出ています。ヴァイオリンが小さく見えます。そんな大男が神経を集中して音楽を奏でるのです。結果はブラヴォーです。1曲バッハをアンコールしました。
 ヘルベルト・ブロムシュテット(写真3)のブルクナーの交響曲第7番はこの人のお得意の曲です。1980年にドレスデン国立歌劇場のオーケストラ(いまの呼称は「Staatskapelle Dresden」)で録音したレコードは定盤といわれていました。1時間以上かかるこの曲を90歳なのに立ったまま指揮しました。少し前までブロムシュテットはゲバントハウスオーケストラの常任だったので気心は知れています。演奏は期待どおりでした。いつも早く寝るクセがついているので,8時からの演奏会で心地よい音楽を聴かされると眠くなってきます。寝ませんでしたけどね。
写真3 ヘルベルト・ブロムシュテット

 第4楽章の最後の音が終わると,しばらくは静かでした。誰も手をたたきません。ブロムシュテットが右手をあげた形でフィニッシュしていたからです。それが降りるまで息をつめていました。その意識を集中した静寂も感動です。我慢できなくなった人が拍手して,ブロムシュテットも身体の力を抜き,やっとみんなも拍手できました。90歳なのに何度も何度も挨拶に出てきて,指揮台のうえに置いてあったポケットスコアを持って「ブルクナーに拍手を!」というジェスチャーをしてお開きとなりました。

おすすめのYouTube

 kavakos mendelssohnで検索するとピアノトリオか協奏曲のマスタークラスの風景くらいしか出てきません。mendelssohn violin concerto だといろいろと出てきますが,いま注目のオランダのジャニーヌ・ヤンセンはいかがでしょう。「JANINE JANSEN – Mendelssohn Violin Concerto in E minor / Mariss Jansons」がそれです。
 ブロムシュテットのブルックナー第7番はblomstedt bruckner 7 で検索すると昨年の演奏が出てきます。映像は動かないので,動いているブロムシュテットは他の曲目で見てください。
 Bruckner:Symphony No. 7 – Bamberg Symphonic Orchestra/Blomstedt(2016)
 ライプツィッヒ・ゲバントハウスオーケストラでなくバンベルク交響楽団との演奏です。
※紹介したYouTubeが削除されていることがあります。

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