2018年8月号掲載
物見遊山のフラヌール または聴かずに死ねるかクラシック その06
中木 高夫 看護ウォッチャー
ハイデルベルク④

 パリのポン・ヌフ橋の中央にあるヴェール・ギャラン公園の名は“女たらし”,アンリ4世のあだなに由来するのだそう。「ドン・ジョヴァンニ」の調べはフランス・パリ行の前奏?ここは慌てず,ハイデルベルクの遊歩が続きます。


10月29日(日)
 今日はモーツアルトの「ドン・ジョヴァンニ」。地元,ハイデルベルクのテアターです。  「ドン・ジョヴァンニ」はイタリア語。「ドン・ファン」のほうがイメージしやすいでしょう。「女たらし」「プレイボーイ」の代名詞ですね。Wikipediaによると「ドン・ファン(Don Juan)は,17世紀スペインの伝説上の放蕩児,ドン・ファン・テノーリオ(Don Juan Tenorio)のことで,プレイボーイの代名詞として使われる。フランス語ではドン・ジュアン,イタリア語ではドン・ジョヴァンニと呼ばれる。元になった伝説は簡単なもので,プレイボーイの貴族ドン・ファンが,貴族の娘を誘惑し,その父親(ドン・フェルナンド)を殺した。その後,墓場でドン・フェルナンドの石像の側を通りかかったとき,戯れにその石像を宴会に招待したところ,本当に石像の姿をした幽霊として現れ,大混乱になったところで,石像に地獄に引き込まれる」。ウーン,完璧。何を付け足そう(笑)。

* * *

 「あらすじ」です。
 【第1幕】17世紀のスペイン。とはいっても,演出によってどこにでも移されてしまうのが昨今の風潮。ドン・ジョヴァンニは,女であれば誰でも次から次と口説いてはものにする女たらし。今夜も従者レポレッロに見張りをさせてドンナ・アンナ(ドンナはイタリア語で貴婦人の名に冠する敬称)の寝室に忍び込む。ところが大騒ぎになり失敗。ドンナ・アンナの父である騎士長が駆けつけたがドン・ジョヴァンニに刺し殺される。懲りない男ドン・ジョヴァンニはふたたび街で女性に声をかける。それがかつての恋人のドンナ・エルヴィラ。レポレッロに彼女を押しつけ逃げてしまう。次の標的は村娘ツェルリーナ。農夫のマゼットと結婚しています。ドン・ジョヴァンニは村人を自宅に招き,ツェルリーナをものにしようと計画。あわやというところにドンナ・アンナと婚約者ドン・オッターヴィオ,そしてドンナ・エルヴィラの3人が現れる。ドン・ジョヴァンニとレポレッロは逃げ去る。
 【第2幕】懲りない男ドン・ジョヴァンニはレポレッロと服を交換して女あさりに。一方,レポレッロは衣装のせいでドン・ジョヴァンニと間違われてドンナ・アンナたちに取り囲まれる。レポレッロはなんとか逃げだしドン・ジョヴァンニと墓場で落ち合う。墓場には殺害した騎士長の石像が。ドン・ジョヴァンニが女遊びのことを話しているときに石像が「悔い改めよ」と語りかける。ドン・ジョヴァンニは石像を夕食に招待。その晩,ドン・ジョヴァンニが食事をしていると,招待された騎士長の石像が訪ねてくる。ドン・ジョヴァンニは「私は何も悪いことはしていない」とあいかわらずな態度。騎士長の石像はドン・ジョヴァンニを地獄に落とす。ドン・ジョヴァンニ以外の6人が「悪人の最後はこのとおり」と歌い上げる。
 印象的な「序曲」から始まりますが,この序曲にははっきりした終結部がなくオペラへ導入されます。その後,ものにした女性をあげる「カタログの歌」や「シャンパンの歌」「ぶってよマゼット」,マンドリンが印象的な「ドン・ジョヴァンニのセレナード」,宴会場で楽師が奏でるヒット曲「もう飛ぶまいぞこの蝶々」(オペラ「魔笛」のなかのアリア),「ドン・ジョヴァンニ」と呼びかけるバスの低い声が印象的な「悔い改めよ,生き方を変えろ」など,どこかで聴いたことのある曲が満載です。

* * *

 ハイデルベルクのテアターの「ドン・ジョヴァンニ」は19時開演です。
 ドイツやフランスが属している中央ヨーロッパ時間には,4~10月の夏時間(サマータイム)と,11~3月の冬時間(ウィンタータイム)があります。これはヨーロッパでは日照時間が夏と冬では極端に差があり,夏至の時期の日照時間は5:30~22:00頃で,冬至の時期の日照時間は8:30~16:30頃だからだそうです。夏時間は朝起きたら(本当は午前2時らしいのですが,たいていの人は睡眠中)時計を1時間進め,冬時間は1時間遅らせます。10月最終日曜の今日から冬時間がはじまります。19時開演ということは,昨日だったら何時?
 ハイデルベルクのテアターの「ドン・ジョヴァンニ」は今年のプリミエの1つです。プリミエというのは新演出のことで,目玉商品ということでしょう。
 第1幕は登場人物が白ずくめ。目のところに黒いマスクをして,ヴェニスのカーニバルをシンプルにしたような雰囲気です(写真1)。オペラはアリアやデュエット,トリオ,重唱,合唱をレシタティーヴォという台詞歌でつないで話を進めていきます。このレシタティーヴォにはチェンバロの伴奏がつくのですが,これがやたらと攻撃的。とても伴奏とは思えません。まるで歌との競争的二重奏です。オケは特別なことはしません。チェンバロを通奏低音として扱えば面白かったのにというのは,あとから考えたことです。
写真1 当夜の演目「ドン・ジョバンニ」第1幕
 壁をうまく動かして舞台を室内にしたり,戸外にしたりします。ところが,最後に大道具のオジサン風の人が2人出てきて,背景を描いた布を徹底的に引き.がしていきます。 第2幕はすべてが壊された舞台です。
 登場人物もほとんどが下着のような姿。ドン・ジョヴァンニとレポレッロだけがそのままの衣装です。だんだんとドン・ジョヴァンニが暴れだし,客席に出てきたり,アコーディオンを抱えて自分のレシタティーヴォの伴奏をしたりします。Ip.a Ramanovi.という人だと思うのですが,何と読むのだろう?イプカ・ラマノヴィッチかな。たいした才能です。いや,ダブルキャストになっているからもRaymond Ayersという歌手かもしれません。この人はマンハイムの劇場からの客演のバリトンです。
 もう1人感心したのはドンナ・エルヴィラを演じたHye-Sung Naというソプラノ(写真2)。ヒェスン・ナと発音するのでしょうか。韓国の人でしょうね。いまどこのテアターに行っても,韓国,中国の人なしではオペラはできないくらい「平たい顔族」が進出しています。オケのほうもそうです。このナさんは表現力豊かで上手で際立っています。このテアターを背負って立っている人たちの1人でしょう。
幕がおりて,歌手たちがカーテンコールに出てきます。遅れて指揮者が女性歌手に手を引かれて出てくるのがおきまりですが,特別に拍手を受けるように指さしたのはチェンバリストでした。やっぱりなあ!
写真2 Hye-Sung Na
さて,帰りはドイツ料理屋さんに寄って,定食とビールですね。

おすすめのYouTube

これはすごいです。フルトヴェングラーの歴史的名演があります!アッバード!バレンボイム!どれを推薦しようかな。ベームのプラハ録音のドキュメンタリーもある。ここはハルノンクールが2001年,チューリヒ歌劇場で指揮した演奏にしましょう。
Mozart – Don Giovanni – complete (English Subtitles) – HD
歌詞は対訳サイトでご覧ください。
※紹介したYouTubeが削除されていることがあります。

連載一覧項目へ