2018年9月号掲載
物見遊山のフラヌール または聴かずに死ねるかクラシック その07
中木 高夫 看護ウォッチャー
ハイデルベルク⑤

 何重もの音楽トリビアをお伴に,はや読者にも馴染みのハイデルベルク・テアターへ。グリム童話に,宮崎アニメを彷彿とさせるキャラクターまで登場し,記憶の街区を彷徨うフラヌール。


11月4日(土)
 今日はエンゲルゲルト・フンパーディンクの「ヘンゼルとグレーテル」。またしてもハイデルベルクのテアターです。この小さなテアターが気に入っています。
 エンゲルゲルト・フンパーディンクという作曲家の名前を知っている人でも,「ヘンゼルとグレーテル」以外の作品というとほとんど知りません。
 4つほどオペラは書いているらしいのですが。この名前は1960年代から70年代にかけて流行したイギリスのポピュラー歌手として知っている人が多いと思います。この人はドイツ人作曲家の名前をとってエンゲルゲルト・フンパーディンクとしたそうです。
 「ヘンゼルとグレーテル」はグリム童話からとられました。大飢饉のせいで口減らしのために子どもたちを捨てる話です。畑でジャガイモがつくられるまでは大飢饉が多かったと伝えられています。ワーグナーの弟子であったフンパーディンクが妹さんの依頼で子ども向けのメルヘンオペラを作曲し,それが出世作になりました。

* * *

 【第1幕】昔々。ヘンゼルとグレーテルの兄妹が留守番をしながら遊んでいる。そこに母親のゲルトルートが帰宅。遊んでいた2人は大切なミルク壺を割ってしまう。母親は「森でイチゴを摘んできなさい」と2人を怒る。その後,父親のペーターが帰宅。森には魔女がいると言われていたので,森へ子どもたちが行ったと聞いて驚く。
 【第2幕】深い森の中。ヘンゼルとグレーテルはイチゴを摘んで帰ろうとした。ところがあたりは暗くて帰り道がわからない。眠りの妖精が2人を眠らせる。しばらくして暁の妖精が2人を起こすと目の前には……。
 【第3幕】……お菓子の家がある。2人は家のあっちこちからお菓子を食べだす。夢中で食べていると背後に忍び寄ったのは魔女。魔女は2人をつかまえ,ヘンゼルを檻の中に入れて,グレーテルに食事の支度をさせる。太らせてからヘンゼルを食べようというのだ。魔女が無理やり食べさせているすきに,グレーテルは魔法の杖を奪い取る。魔女がヘンゼルをかまどの中に放り込もうとするとき,逆に魔女を押し込んだ。すると,魔法がとけて,お菓子の家からたくさんの子どもたちが出てきた。ヘンゼルとグレーテルは両親のもとに帰れた。

* * *

 欧米のオペラというと奇をてらった現代風(衣装や装置が安くつくのかな?!)の演出がのさばっています。なにかというと下着にちかい格好になる風潮がみられます。しかし,「ヘンゼルとグレーテル」は,親子で見に行くオペラということで,メルヘンチックな演出で母国語上演というのが基本です。
 さて,ハイデルベルクのテアターは?
 席は前から12列目の14番。真ん中あたりです。まわりには珍しくお年寄りばかりでなく若い人たちがいます。
写真1 第1幕の冒頭
http://www.theaterheidelberg.de/produktion/haensel-undgretel-2/
(C)Annemone Taake
 幕があくと,フーム,メルヘンチック。傾斜の強い舞台に小さな小屋が建っています。グレーテルがかいがいしく働くような,ヘンゼルと遊ぶような(写真1)。ヘンゼルはあのソプラノ,ヒェスン・ナさんです。なんとなくトト姉ちゃん風なのは三つ編みのせいか。残念なことに字幕がドイツ語だけ。インターナショナルなテアターになるのなら英語字幕が必要。でも,そんな気持ちはさらさらないローカルなテアター。台詞のやりとりが気になります。
 森へイチゴ摘みに(写真2)。森のスライドが綺麗です。眠りの妖精に眠らされたヘンゼルとグレーテルのまわりに,森の精のような子どもたちが(写真3)。お菓子の家はまさにお菓子の家そのもの。魔女は「千と千尋の神隠し」の湯婆婆みたい(写真4)
 魔女がかまどの中に入れて殺されると,かまどからは子どもたちが出てくるわ,出てくるわ。最後は子どもたちの合唱でめでたしめでたし。
 終演後のお客さんはなんだか幸せそう。いつもはオペラなんか来ないようなネエチャン風のグループは劇中の歌を歌っています。子どもの頃にお父さんやお母さんと一緒に,もしかしたらオマやオパと一緒に観に行ったのでしょうね。12 月になって,娘と一緒に観に行った(1列目のど真ん中)孫(幼稚園児)は,たくさんの子どもたちを見て,舞台に出たいかと言うと「魔女に会わなくてもすむお父さんの役がいい」と言ったそうです。娘一家はベトナム料理店に行っています。ぼくの晩ごはんは買ってきてくれるそうです。
写真2  2 人は森へイチゴを摘みに
http://www.theaterheidelberg.de/produktion/haensel-und-gretel-2/
(C)Annemone Taake
写真3 眠る2人と子どもたちhttp://www.theaterheidelberg.de/produktion/haensel-undgretel-2/
(C)Annemone Taake
写真4 お菓子の家と魔女 http://www.theaterheidelberg.de/produktion/>/a> haensel-und-gretel-2/
(C)Annemone Taake

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