2018年11月号掲載
物見遊山のフラヌール または聴かずに死ねるかクラシック その09
中木 高夫 看護ウォッチャー
カールスルーエ①

これまでも遊歩の先で幾度か遭遇した〈新しい演出〉。いきなり「THE END」からはじまるワーグナー「神々の黄昏」の演出は,謎かけのような終幕まで興味津々。Dr.NAKAKIとともに6時間の荘重な儀式にあずかりましょう。


11月5日(日)
 10月の終わり頃だったか,ムコ殿の母上のマーガが住むプフォルツハイムに表敬訪問。近辺のシュヴァンという場所のレストランへ。そこで姉上のダグマーが「うちの劇場でワーグナーのリングをやっている」と。早速,ムコ殿はスマートフォンを出して予告編を見せてくれました。
 その晩,ワーグナー大好きのムコ殿が一緒に行こうというので「神々の黄昏」のチケットをポチポチ。
 「神々の黄昏」はワーグナーの作曲。ワーグナーの「ニーベルングの指輪」は,序夜「ラインの黄金」,第1夜「ワルキューレ」,第2夜「ジークフリート」,第3夜「神々の黄昏」という連作オペラ(指輪ツィクルス)。序夜を除くとそれぞれ半日仕事のヘヴィなオペラ。それを新しい演出でつくりかえるのは劇場にとってステータスらしい。
写真1 州立劇場の全景
 バート=ヴュルテンベルク州カールスルーエにある州立劇場(写真1)は古い歴史を誇り,この指輪ツィクルスをやりとげるのは3回目とか。1回目がヨーゼフ・カイルベルト,2回目がギュンター・ノイホルト,そして今度がジャスティン・ブラウン。2回目のCDは持っています。

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 「あらすじ」からいきましょう。ジークフリートは双子であるジークムントとジークリンデの子ども。ブリュンヒルデは主神ヴォータンと知の女神エルダの子ども。戦死者を天上の宮殿ヴァルハラに迎え入れる選別を行なう女性ワルキューレの1人。「ニーベルングの指輪」という題名が示すように指輪が重要な役割をしています。
 【序幕】神話の時代。3人のノルンがこれまでの経緯を話す。ノルンとは北欧神話に出てくる運命の女神。3人姉妹でウルズ(過去),ベルザンディ(現在),スクルド(未来)という名前がある。ジークフリートとブリュンヒルデは幸せに暮らしていた。しかし,英雄ジークフリートは武勲を求めて旅立つ。彼は妻ブリュンヒルデに指環を残して旅立つ。
 【第1幕】ライン川近くのギービヒ家の長男グンターは,異父弟ハーゲンに,一家が栄える知恵を聞く。ハーゲンはブリュンヒルデを妻にすることを勧める。
 そんなことは知らずにギービヒ家にやってきたジークフリートは忘れ薬を飲まされグンターの妹グートルーネに求婚。グンターはブリュンヒルデを自分の嫁にという条件を出した。ジークフリートは「隠れ頭巾」(これをかぶると姿が見えなくなる)をかぶってグンターと一緒にブリュンヒルデのもとへ。そして,彼女がはめている指環はジークフリートの手に。
 【第2幕】父であるアルベリヒがハーゲンの夢のなかで神々に奪われた指環のことを話す。ハーゲンは指環を手に入れると誓う。グンターの館では婚礼が行なわれようとしていた。ジークフリートとグートルーネ,そしてグンターとブリュンヒルデ。ブリュンヒルデはグンターに奪われたはずの指環がジークフリートの指にあるのを見つけて驚く。さらに自分のことをすっかり忘れてしまったジークフリートに対して怒りが。ハーゲンはブリュンヒルデにジークフリートの弱点を聞き出す。ブリュンヒルデは,ジークフリートは無敵だが,背中は不死身ではないことを教えた。
 【第3幕】ラインの娘たちが指環を返すようにジークフリートに求めるが無視される。ジークフリートは宴会の席で忘れ薬の解毒剤を飲まされる。記憶が戻るとブリュンヒルデのことを思い出す。しかし,ハーゲンに刺されブリュンヒルデを讃えながら亡くなる。「ジークフリートの葬送行進曲」が流れ,遺体がグンターの館に運ばれる。ラインの娘たちからすべてを聞いたブリュンヒルデは,ジークフリートの遺体を燃やす。そのときライン川が氾濫し,すべてを飲み込む。ラインの娘たちは水の中で指環を取り返し,ハーゲンは溺れ死ぬ。ブリュンヒルデの放った火は神々の宮殿ヴァルハラに燃え移り,その栄華は終りを迎える。

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写真2 第1幕の冒頭
 デカいホールです。前から13列目の真ん中あたりの席。幕が開くといきなり「THE END」の文字(写真2)。3人のノルムが今までの物語を振り返っています。そして,ブリュンヒルデの館で2人はイチャイチャしています。しかし,ブリュンヒルデはお相撲さん体型。ジークフリートもおなかがポッコリ。ちょっとなあ。まあ,オペラは声優先ですから。
 序幕と第1幕は途切れず進んでいきます。旅立ったはずのジークフリートは「隠れ頭巾」をかぶってグンターとブリュンヒルデのところへ。うまくやって指輪をだまし取ります。ここで第1幕終了。休憩です。もう2時間もたっています。水分補給をしました。
写真3 第2幕
 第2幕は宴会のシーンです(写真3)。こうなるとなんだかわかりませんね。第3幕との間の休憩はトイレタイムにあてました。
 第3幕の聴きどころは「ジークフリートの葬送行進曲」。林のなかでジークフリートが刺されたあとに鳴り響きます(写真4)。林は舞台に出ている人たちが運んできます。できるだけ安くあげる工夫でしょうか。刺したグンターがハーゲンに抱きついています。みなが英雄の死を嘆きます。
 そしてブリュンヒルデの長い独白のあと,ヴァルハラが炎上して4夜にわたるオペラの大団円だと思っていたのに,あにはからんや。そこから一気にフィルムの巻き戻しがはじまり,順序が逆にいろいろな場面が再現され,最後はジークフリートがブリュンヒルデの家を出て行くところに行き着きます。スゴロクの「はじめにもどる」なのか,インカネーション(輪廻)なのか? モヤモヤします。演出家の野郎め!
写真4 「葬送行進曲」のシーン

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 9時過ぎまでかかりました。6時間近く座席に座っていたことになります。なんだか,荘重な儀式にあずかった感じです。晩ごはんは職員食堂でこの地方の独特のマウルタッシェ(餃子の輪切りを炒めたもの)とビールをいただきました。

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 YouTubeは「gotterdammerung」と入れて検索するとWagner, Gotterdammerung,Boulez, Bayreuth ’79というのがあります。ピエール・ブーレーズ指揮とパトリス・シェロー演出のはじめての現代風ワーグナーとして伝説の舞台です。
 しかし,4時間以上の映像を見れるのかなあ。
※紹介したYouTubeが削除されていることがあります。

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