2019年9月号掲載
物見遊山のフラヌール または聴かずに死ねるかクラシック その19
中木 高夫 看護ウォッチャー 
パリ⑧

美術館の散策を終え,休息はそこそこに,ふたたび街を逍遥するDr.NAKAKI。旅程最後の素敵なコンサート。パリからの帰りもSバーン。旅は次号へと続きます。


11月29日(水)
 夕方20時半の開演に向けて18時半にホテルを出ました。演奏会場はフィルハーモニー・ド・パリ(写真1)。昼間に見るとこんなに恐ろしい形だったのですね。7番の地下鉄でスターリングラードへ。ここで5番に乗り換え,ポルト=ド=パンタンで下車。30分くらいでしょうか。
写真1 フィルハーモニー・ド・パリ
 会場の場所はだいたいわかっているので,あたりの食堂に入ろうかと散策。こらあかん。ホテル案内にこの地域はガラが悪いという警告が載っていたけど,そのとおり。なんだかみすぼらしげな若者がワサワサいます。周辺の散策はほどほどにして,すぐに会場に向かいました。
 前来たときに見当つけていたところとは少し先でしたが,無事に到着。
 セキュリティチェックはあったかな? 印象に残らないくらいだったのでしょう。
 クロークにコートをあずけ,ホワイエ内の軽食スタンドへ。サンドイッチとコーヒー(こっちは基本エスプレッソ)を頼みました。座るところがないので相席をオジサンにお願いしたら「ウィ」。あとからオバサン2名も「相席いいかしら?」みたいなフランス語。そのオジサンが「ウィ」。こっちは「どうぞ」の身ぶり。

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写真2 グランド・サル・ピエール・ブーレーズ
 時間がきて会場に入ってみると「広い!」(写真2)。アリーナ様式。カラヤンがベルリンにオーケストラを四方から見られるホールをつくらせたら「カラヤンサーカス」と揶揄したのに,いまはこのほうが一般的です。京都のコンサートホールのようにシューボックス様式(靴箱のように長方形のホール)は音がよいといわれていたけれど,いまのオーケストラの性能からしたら関係ないのかな? ぼくの席はかなりいい席。第1 ヴァイオリン側の真ん中くらいで,前から10列目くらい。これで50ユーロ(1ユーロ138円として9,900円)。日本公演なら2~3万円はとられます。

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 1曲目はシベリウスの「ヴァイオリン協奏曲」。諏訪内晶子さんです。以前,京都の河原町三条でタクシーに乗られるところを見たことがあるのですが,なま諏訪内は格別の美人! 今日は真っ赤のドレスが映えています! ハイヒールをはいているのでしょう,指揮者のパーヴォ・ヤルヴィより背が高い。ま,指揮者は背の低い人が多いような気がしますが……。
 演奏はエネルギッシュ。シベリウスがあんなに技巧的だとはいままで気づきませんでした。オーケストラと一緒に歌いあげていくところなんかありません。常に対決的なのですね。いつもながら族で聴いているから,気がつかないでいました。大きなオケに諏訪内さんは1歩もひけをとりません。
 諏訪内さんはいまから約20年前に『ヴァイオリンと翔る』(日本放送出版協会)という本を出版されています。その後,NHKライブラリーにも入っていますが,いまは例によってどちらも「在庫なし,増刷り予定なし」です。10代にして主要な国際コンクールで優勝し,これから海外でさらに研鑽を重ねる時期での出版だったと記憶しています。内容のほとんどは忘れてしまいましたが,1つだけ,いままで諏訪内さんを支え続けてくれていた方々を前にした喫茶店(?)でのコンサートで,この人たちを忘れずにがんばっていきたいという決意を示されるところでした。若い彼女をサポートし続ける人たちがいるという幸せを演奏者が自覚している,天狗にならず謙虚にその人たちの気持ちを大切にするという若者に感動しました。
写真3 ブラヴァ!
 演奏が終わって,お客さんは大興奮。最初は大拍手,大「ブラヴァ!」だったのですが,そのうちリズムが合ってきて,フランス式手拍子。もしかしたら足拍子も(写真3)。ただの拍手じゃないんですよ。会場中が拍子を合わせてバンバンバン! 諏訪内さんがひとりで出てきて,アンコールに無伴奏のきれいな曲を弾かれました。誰の作曲だろう? イザイではないな。

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 2曲目はドミートリイ・ドミートリェヴィチ・ショスタコーヴィチの交響曲第7番「レニングラード」。この交響曲は実は日本ではおなじみなんです。以前,シュワちゃんが出ていたアリナミンV飲料のコマーシャルで「チーチーンVV」と鳴っていた曲を含んでいます。YouTubeでこのコマーシャルをいま見てみると,ちゃんとショスタコーヴィチの交響曲第7番というクレジットが,実に目立たなく入っています(笑)。
 レニングラードという副題は,ナチス・ドイツ軍による「レニングラード包囲戦」のさなかに作曲され,「わたしは自分の第七交響曲をわれわれのファシズムに対する戦いとわれわれの宿命的勝利,そしてわが故郷レニングラードに捧げる」と表明しているところからこう呼ばれるようになった。壮大な愚作という評価もある。ぼくにとっては「チーチーンVV」を思い出させるところでダメかな(笑)。
 舞台の上は,所狭しと,楽団員がひしめき合っています。トランペットとトロンボーンは定位置にフルメンバーが,さらにエキストラでしょうか,右奥の打楽器群の後ろに同人数のラッパ隊として配置されています。
 第1楽章。例の「チーチーンVV」です。このメロディは「人間の主題」と呼ばれ,行進曲風に何度も何度も楽器をかえて繰り返し盛り上がってきます。ラヴェルの「ボレロ」と似た作曲形式ですが,あれほど単純にひたすらクレッシェンドするだけではなく,たぶんソナタ形式ですから,複雑な展開部も存在します。それにしても巨大編成ですから最高潮に達したらすごい音の洪水。エキストラのラッパ隊は最後に立つのだろうなと思っていたら,やはり立ちました(笑)。
 第1楽章がかなり長い曲です。終わったら会場の人が咳き込むこと,咳き込むこと。がまんしていたのですね。指揮者も終わるまでしばらく待っていました(^0^)
写真4 やっと終わった
 第2楽章は記憶が飛んでいます。寝てたのかなあ? とにかく長い。そう思いながら第3楽章。すると雰囲気の違う音楽へ。第3楽章と第4楽章は連続しているのです。最後はすごい大音響で終了。指揮者ヤルヴィは最後の音を思いっきり引っ張り,もっと出せというジェスチャー。ところが,出るんです! もちろんブラヴォー(写真4)なのですが,客席はお爺ちゃんやお婆ちゃんが高率。みんな眠い眠い……。

おすすめのYouTube

 YouTubeは「suwanai sibelius」。「Sibelius Violin Concerto op.47 / Akiko Suwanai 諏訪内晶子」というのが諏訪内晶子+パーヴォ・ヤルヴィ+NHK交響楽団の演奏です。ちなみにこの日の演奏のペア曲はショスタコーヴィチの交響曲第7番「レニングラード」でした。日本でリハーサル?
 ショスタコーヴィチの交響曲第7番「レニングラード」は「shostakovich symphony7」で検索しても,この日のN響との演奏はアップされていないのでpaavo jarviを足して探すと「Dmitri Shostakovich[ Дмитрий Шостакович]:Symphony No.7 in C major“Leningrad”,Op.60」というロシアのオーケストラを指揮したのがありました。画像はありません。
 せっかくのYouTubeですから動画付きというと「Schostakowitsch:7. Sinfonie(≫Leningrader≪)・hr-Sinfonieorchester・Marin Alsop」がいいでしょう。
※紹介したYouTubeが削除されていることがあります。

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