2019年11月号掲載
物見遊山のフラヌール または聴かずに死ねるかクラシック その21
中木 高夫 看護ウォッチャー 
パリ以降②

中盤のトランペットに胸高鳴る「凱旋行進曲」はそう,サッカーの応援で耳にしますね,Dr.NAKAKI。「高校野球の応援のような」という喩えもなるほどと。誌上遊歩の後,スケールの大きなオペラが観たくなってくるに違いない今月号,はじまります。


 12月3日から次のオペラまで予定がないので,何かいいのはないかなと探していたら,マンハイムのテアターでヴェルディの『アイーダ』がありました。チケットのあき具合を見てみると,前から3 列目のド真ん中に1席だけ空いています。これは行くしかないとポチしました。

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12月13日(木)
 『アイーダ』というと超有名ですが,いままでに一度も見たことがありません。あらすじです。
 登場人物はエジプトに捕らえられたエチオピアの王女アイーダ,エジプト軍の司令官ラダメス,ラダメスに恋心をいだくエジプトの王女アムネリス,祭司長のラムフィス,アイーダの父でエチオピア王アモナスロ,エジプトの国王(ファラオ)。このオペラでは合唱が重要です。
 【第1幕】古代エジプトの首都メンフィス。エジプトとエチオピアは戦争をしている。敵国エチオピアの王女アイーダはエジプトの捕虜となり,身分をかくして王女アムネリスの奴隷となっている。アイーダはエジプト軍司令官のラダメスと愛しあっている。ラダメスはエチオピア討伐の指揮官を命じられる。アイーダは恋人と祖国への愛との板挟みに悩む。
 【第2幕】エジプトの王女アムネリスもラダメスのことを愛している。戦場のラダメスを心配するアイーダを見て,恋敵であることを確信する。戦いはエジプトが勝利し,凱旋したラダメスに娘のアムネリスを与え,将来自分の後を継ぐようにエジプト国王が言う。アムネリスは喜んだが,ラダメスは困惑。アイーダは悲しんだ。
 【第3幕】エジプト軍の捕虜のなかにエチオピア国王のアモナスロがいた。アモナスロは,ラダメスからエジプト軍の機密情報を聞き出すよう,娘のアイーダに言う。アイーダはラダメスに国を捨てて2人で一緒に暮らすことを提案する。ラダメスも賛成し,エジプト軍が配備されていない「ナパタの谷」を通れば,内密に逃げられるとアイーダに伝える。この話を盗み聞きしていたアモナスロは,エチオピア王であることをラダメスに明かし,その「ナパタの谷」からエジプトを攻める提案をする。ラダメスは悩む。そこにアムネリスが現れたので,ラダメスはアイーダとその父アモナスロを逃がす。
 【第4幕】ラダメスは軍事機密を漏らした罪で,死刑を申しわたされる。王女アムネリスは,アイーダに対する想いを捨てるなら命を助けるとラダメスに言う。ラダメスはそれを断り死を覚悟する。ラダメスは地下牢に生き埋めとなる。地下牢にはアイーダがいた。彼女は入り口が埋められる前に忍び込んでいた。2 人は抱き合い,永遠の愛を確かめつつ,静かに死を待つ。

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 今回のマンハイムはよかった。このテアターとは相性が悪いのかなあと思っていたのですが,要は指揮者との相性のようです。強力なリーダーシップと音楽のセンスがないとダメだというのがよくわかりました。
 まず,歌手がよかった。そして合唱も。オケも大活躍。オケピットのなかでも,舞台のうえでも。まあ,順にいきましょう。
 第1幕の舞台が開くと,舞台はローマのコロッセウムのような階段状の建築のつもりでしょうか,実際にはアメリカの高校のアメリカンフットボールの応援席のような簡単な装置が回り舞台のうえに組み立てられています。最初は裏側です。アイーダの部屋にはなぜか液晶テレビが置いてあります。
写真1 高校の観覧席の裏側のような舞台装置
 幕開き早々にテノールのラダメスによる「清きアイーダ」。決してイタリア風というか,ルチアーノ・パバロッティ風ではないけれど,破綻なく立派に歌いきりました。ブラーヴォです。「勝ちて帰れ」のアイーダもいいです(写真1)。名前からするとアメリカ人? 観覧席にはエジプト人がならび,ラダメスを応援します。そのときに,かつてのPL学園高校の応援団のように大きな応援板を指示どおりに開きます。うまく揃うと決まるのですが,なぜか数人間違える人がいます。失笑がもれます。最後には荘厳な合唱が鳴り響きます(写真2)
写真2 PL学園高校の応援団風?
 第2幕の聴きどころは,まず合唱による「エジプトとこの聖なる土地を守りしイシスの神に栄光あれ」にはじまる凱旋行進曲でしょう(写真3)。サッカーの応援にも歌われる曲です。エチオピア人捕虜の出現は客席からです。エチオピア王アモナスロは客席で歌います。空間が立体的になって面白い演出です。ラダメスが偉そうな格好(サングラス)で現れ,エチオピア人捕虜を助けるように求めます。ファラオはラダメスをアムネリスの夫とし,自分の後継者とすることを宣言します。それに反対な祭司長ラムフィス,絶望するアイーダなど,登場人物の複雑な気持ちが歌われ,最後は華やかな大合唱です。
写真3 凱旋行進曲
 ここまで休憩なしできました。第3幕と第4幕も続きで上演です。
 第3幕の幕があくとまもなく,オーボエのきれいな旋律がからむアイーダのアリア「おお,わが故郷」があります。オーケストラスタディというのがオーボエの勉強のなかにあるのですが,娘はこの部分をその科目で吹いたことがあるそうです。その後は機密をめぐって劇的な展開がありました。重唱が聴きもので,拍手がありました。
 王女アムネリスが,ラダメスを「思い直せば命を助けよう」と説得するアリアがみごとです。メゾソプラノが落ち着いた声で美しい。その後の裁判の際の合唱が響き,ラダメスは地下に埋められます。通常の演出だと二重舞台にして上が神殿,下が地下牢となるのですが,この演出ではラダメスが地下に入れられたあと,最後のアイーダとラダメスの二重唱は右側バルコニー席の最前列で歌われ,静かに幕がひかれます。
 終了後はブラヴォーの嵐。何度もカーテンコールがあります。誰かひとりが突出しているということはなかったのですが,いちばん拍手が大きかったのは指揮者とオーケストラに対してでした。

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 歴史的名演といえば,アルトゥーロ・トスカニーニという名指揮者がいましたが,その姿が見られるフィルムがアップされています。音は悪いのですが,一度は見ておくのもいいでしょう。「AIDA-GIUSEPPE VERDI-1949」。あのトスカニーニが動いているというだけで感激です。 

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